5月の雨に故郷を思う
はたして私がいちばん「幸せだ」と感じる瞬間とはいつだろうか。
朝起きて、今日が休日だと気づいて、サラサラとしたシーツの中で2度寝ができる時。
これは何度体験しても大変幸せである。今朝も大変幸せであった。
そのほかに、
春の雪解けからの土の匂いを感じた時、
初夏の木々の若葉を教室の窓の外に見ながら、うとうとと授業を聞いている時、
田植えをして水が張った田んぼに、空と周囲の山が綺麗に映っているのを見つけた時、
夏の夜に蛙が鳴き始めるのを聞きながら、雨が降るかもねと言ってビールを飲む時、
残暑が過ぎて、心地の良い風を感じながら、秋の味覚の時期だなと感じた時、
雪がしんしんと降って、その勢いに恐怖を感じながらも、どこかワクワクしてしまう時、
一面の雪原を見渡した時、
田んぼの真ん中で深呼吸をした時、
幸せな瞬間はいつだって故郷にいる時のことを思い出す。田んぼと山に囲まれた大層な田舎で、何にもすることもなくて、毎日とても退屈だった気もするけど、とても幸福だった気がする。
都会なんて大嫌いで、海よりも山が好きで、いつだって戻りたかった。
私が世界で唯一、本当の意味で呼吸ができるのは、今も昔も故郷の田んぼのあぜ道しかない。よく白い犬と散歩に行ったあの道。
気付いたらそこは私の場所ではなくなっていて、東京に再び出てくる時には多くもなかった服も本も、私物は全部処分してきた。
誰も戻ってくるななどとは言っていないし、もし私が困った時には戻っても誰も文句は言わないんじゃないかな、ということにはとっくに気が付いている。
東京の端っこで、単身用アパートの窓から雨風が吹くのを聞きながら、ぬるい風の匂いを感じながら、私の居場所はいったいどこにあるのかなあなどと、青臭いことを焼酎のお湯割りを飲みながら考える、そんな休日もあっても良いじゃない。